一生トラウマに捉われなくてもいい
SE™療法の目的は、生きている実感を感じられること。自分らしく生きられること
Less is better(少しずつ取り組む方がいい)
- Peter A. Levine, Ph.D.
ピーター・ラヴィーン博士が開発したトラウマ療法です。身体感覚に働きかけることで、自律神経生理の自己治癒力を呼び覚まし、過去のトラウマによって引き起こされているさまざまな辛い症状を和らげることが可能です。それによって過去に起きたことに縛られずに、自分らしく生きるという実感を取り戻すことができます。
今までの心理セラピーは話をすることが中心でした。考え方や行動、気づきに重点が置かれ、過去の辛い身体験を話し、感情を解放することが回復につながるとされています。SE™療法ではそれを大切にしつつ、身体に起きてくる感覚をより大切に扱い、神経生理に少しずつゆっくりと働きかけることで自己治癒力を取り戻していきます。
不安な気持ちや怖かった記憶を話していると身体は自然に緊張して固くなってきます。この感覚が強すぎると和らぐのに時間がかかったり、感情が出すぎたことで不安を感じたり、怖くなったり、恥ずかしくなったり、そのこと自体がトラウマ体験になってしまうこともあります。そのため、SE™療法を用いたセラピーでは、一度にやりすぎないように丁寧に少しずつ取り組むことを大切にしています。身体と心が統合するように、丁寧に、少しずつ、ゆっくり、優しく、大切に扱いながら癒していきます。
そして自己調整力や治癒力が回復してくると、それに伴って客観性も思考力も回復してくるので、自然に視野が広まったり、「腑に落ちる」という表現がぴったりな気づきが得られたりします。また自己の身体感覚が安定してくると、自分の限界にも気づけるようになるので、やれそうなこと、やりたいこと、やれないこと、やりたくないこと、嫌いなもの、好きなものがわかるようになっていきます。
スポーツでも学習であっても、何かに挑戦する時にはまずはできる範囲から始めるものです。高所から下にジャンプすることへの挑戦だとしたら、まず安全な場所と命綱を確認してから、高所から下を見下ろして少し怖い思いを味わって、そして安全地帯に戻ってきてほっとして、それから一息ついてまた下を見ると、前よりは怖さが減っていることに気づきます。数学の難しい問題に挑戦する前に、簡単なドリルから始めて自信と実力をつけ、少しずつ難題に挑戦するのと同じようなことを身体に体験させるのです。何かを会得するには時間をかけて少しずつ確実に進むことが安全で効果的です。SE™療法を用いた心の癒しのプロセスも同じことなので、心と身体の安全を保ちながら、時間をかけてゆっくり少しずつ進みます。
身体感覚には個人差があります。トラウマ体験の反応によって、感覚を感じられなくなっていたり、逆に感覚が超過敏になっていることもあります。自分の身体感覚がどうなのかは実際にセッションの中で体験してみてからでないと、セラピストにもクライアントにもわからないものです。超過敏の場合は、ほんの少しの刺激でも大きく揺さぶられて、不安や恐怖が強くなったり、具合が悪くなったりすることもあります。麻痺している人が感情を感じられるようになると、途端に反転して超過敏に感じられることもあります。
身体感覚とその反応の大きさによって一度に働きかける程度やセッションの頻度が違うので、まず自分の身体感覚に気づくことが先決です。
次に大切なのは、リソースと呼ばれる心と身体の安定・安心感の身体感覚を養うことです。セッションの中で不快な感情や身体反応が出たとしても、その後に引きずらずに、通常モードの身体感覚に戻れるという安心感が出てくることが大切です。これが自律神経生理の自己調整能力が高まるということです。トラウマの核心に触れると不快な感覚や感情が強く湧いてきます。
その時に、トラウマの渦に巻き込まれないためには、「今・ここ」に戻って来れるという安心感が不可欠なので、小さい感情の波で戻って来れることを確かめながら許容を広げ、強い感情の波に備えておきます。そして「今・ここ」が十分安定していることを確認してから、トラウマの核心に少しずつ取り組み始めます。これが再トラウマ化の防止にもつながります。この十分な安定の身体的リソースが得られるのには個人差があり、少なくとも数セッション、数か月~数年かける必要があることもあります。
「今・ここ」が「十分に安定」していることが確認できたら、過去のトラウマ体験の核心に少しずつ触れていきます。思い出したり、話そうとするだけで、嫌な感覚が起きてくることがあるので、その身体の反応を大切に気づきながら進めます。嫌な感じが起きてくると、無視しようとしたり、逆にトラウマの渦に巻き込まれてどっぷりとはまりこんだりすることがありますが、SE™療法では、その身体感覚に意識的に気づいて、興味をもってその感覚がどうなるのかを観察してみます。そうすると自律神経生理が働いて、身体が自然に自己治癒力を発揮して対応してくれていることに気づくでしょう。怖がらずに身体がやりたいようにやらせると、嫌な身体感覚が自然と収まっていったり、防ごう、逃げようという防衛反応の身体の動きが出てくることもあります。そうすると身体に蓄積されていたトラウマのエネルギーが自然に放出されて、身体がじんじんしたり、温かくなったり、呼吸が深くなったり、緩んだりするのが体感できるでしょう。
もし出てきた感情や感覚に圧倒されるように感じたり、身体が固まるように感じたら、我慢や無理をせずに身体感覚のリソースの安全地帯や現実に戻ってくることで再トラウマ化を防ぐことができます。身体の許容ギリギリのところで戻ってくることを繰り返すことで、Window of
Tolerance(許容の窓)と呼ばれる身体感覚の許容範囲が広がっていくので、今まで反応していた不快なことにも余裕を持って対処できるようになっていきます。
神経生理的に説明すると、トラウマ反応の症状として副交感神経の凍りつきと、交感神経の過度な活性化が見られます。自己調整能力が健康な状態では、交感神経が活性化したとしても、副交感神経がそれを和らげてくれるので通常モードに戻ることができます。この健康的な自己調整力を身体に取り戻すことができてくると、トラウマから解放されたという実感が出てくるでしょう。
SE™療法はセラピストの独創性によって実際の進め方はさまざまであり、身体に直接触れるタッチを使う場合と、使わない場合があり、どちらも同じように癒しにつながります。
SE™️ Japan公式サイト
http://sejapan.org/
Somatic Experiencing Trauma Institute / 米国ソマティック・エクスペリエンシング®️本部(英語サイト)
https://traumahealing.org/